【短編小説】幸せな人

あの男、なんか変なんだよなぁ。さっきからこちらを見ては辺りを見渡して・・・なにか犯罪でもする雰囲気だな。

日が傾いてきて人通りが少なくなった公園で、雅人は怪しい男を見つめていた。
最初に男の存在に気づいたのは、雅人が何気なくマンションを見上げた時だった。
たまたまベランダに綺麗な子がいて、その子がたまたまタンクトップで肌を大胆に露出させていたのだ。
下半身はベランダの柵が邪魔でよく見えなかったが、逆にそれが雅人の想像力を掻き立て、もしかして何も履いていないのではという妄想を加速させた。

こんな明るいうちからあんなに可愛い子が下半身丸出しなんてすごい世の中だ、なんてニヤニヤしていると前方の男もマンションを見渡していることに気づいた。
こちらを見ていたのではなく、雅人と同じ方向、そして恐らく同じ部屋を見ているであろうその男に、雅人は親近感のようなものを覚えた。

もしかしてこいつも俺と同じように妄想してるのか?昼間からバカなことをするもんだな。
そう思った瞬間、男はものすごい勢いでこちらを振り向き「チッ」と舌打ちをしてすぐに顔を背けた。

今俺に向かって舌打ちしたのか?
何か失礼なことをした訳でもないのに、いきなり人の顔を見て舌打ちとはなんてやつだ。
雅人は不機嫌そうにしている男を見て、それを上回る不機嫌にならなければ損するような気分になり、心の中で悪態をついていた。

人の顔を見て舌打ちなんて何を考えてるんだ。俺の顔がおかしいか?俺の顔が不快か?いいやお前の顔の方が何倍も不快だ。それにその服装、立ち姿、滲み出る哀愁感。夕方の公園って場所でお前は誰がどう見てもリストラされたサラリーマンだよ。
どうせ家に帰っても1人でー

ここで雅人はハッとした。男がこちらを見ている。
それも明らかにさっきより不機嫌な顔をして、だ。
気のせいという言葉では片付けられない雰囲気に不安が頭をよぎる。
まさか俺の考えがバレてる?
そんな訳ないと分かりながらも、悪態をついた後ろめたさからか非現実的な妄想に辿り着いてしまう。

こいつはもしかして人の心が読めるのか?

ありえない。

そう、そんなことありえないんだ。

でも試しにー

そう思い雅人は心の中で”肩に虫がついてる”と呟いた。
これで肩の方へ視線を動かせばあいつは本物だ、さぁ、どう動く?
非現実と思いながらも怖いもの見たさのような、魔法を信じる子供のように雅人は念じ続けた。

肩を見ろ…見ろよ…ほら!虫がいるぞ!!!!

必死で念じ続けたがその甲斐虚しく男は一向に視線を動かすことなく、公園を出口へ向かって歩き出した。

ダメだもっと強く!
お前の肩に!虫がいるんだよ!!!

男は後ろで念じる雅人の様子など気にまとめず公園を出て行った。

肩を手で払いながら。

え、今肩を触ったよな?
これは俺の心の声が通じたのか?
あいつはやっぱり人の心が読めるのか!!

雅人は急いで公園を出て男の後をつけた。
人の心を読めるやつなんているのか、あいつもしかして人間じゃないのかな、近づきすぎるとまた心を読まれてバレてしまうぞ。
世紀の大発見をした雅人は懸命に表情には出さないように努め、心の中で歌うように話しかけながら男の後を追っていた。
街には夕飯の買い出しに繰り出す家族が大勢いた。
日は傾き、人はまるで黄金の波のように輝いている。
みんなが笑顔でこちらを見ている。
なんて素晴らしい出会いだろう!心を読めるやつがいる!どうにかしてその方法を教えてもらえないだろうか!

雅人には男の後ろ姿以外見えていなかった。

雅人は知らなかった。
あの時みんながマンションの一室を眺め、今はみんなが自分を見て笑っていることを。

そんなことに構う必要なんてない。
今は男を追いかけるだけでいいんだ。
あんな珍しいやついないのだから。

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