【短編小説】ギャングと僕_後編

彼女を寝かしつけた俺は後を追うように寝支度を整える。

今回の台風は規模が大きく、ツイッターの情報では近所のコンビニが閉店しているらしい。川も氾濫する可能性があり外に出るのは厳禁だそうな。

そんなこと言われなくても、風が窓を叩き外の危険さを教えてくれている。これからもっと風が強くなれば、うるさくて眠るどころじゃ無くなるな。俺は台風直撃前には眠りにつこうと思い、部屋を暗くして眠気が来るのを待っていた。

何分経ったか分からないが意識が落ちる狭間に差し掛かったところで、部屋中がハレーションが起きたような光に包まれた。そしてほんの一瞬遅れて地面が叫び声をあげたような強烈な地鳴りと爆発音。

やばい、眠る前に来てしまった。あと少しで眠れるところだったが落雷で目は完全に冷めてしまっていた。ギャングの部屋は俺の部屋から自転車で20分程。同じ音量ではないにしろ、聞こえていないはずはない。頼む、目は覚まさないでくれー

 

📱ピリリリリリリッ

 

願いは届くことなく、携帯の着信画面を見るとギャングの名前が表示されていた。内容は想像できている。恐らくもう逃れる事は叶わないだろう。俺はふぅっと一息つき、意を決して電話に出た。

 

「もしもs

「雷なった。来て。」

「いやでm

「早く来てよ!!!!雷なってるの!!!!台風来てるの!!!!早く来て!!!!!」

 

俺に発言権が回って来る事なく、台風のようにまくし立てられ電話を切られてしまった。

ギャングはもしかすると、俺が自転車20分ほどの距離に住んでることを知らないのだろうか。もしかすると、俺の住んでいるところには台風が来てないと思っているのだろうか。もちろんそんな訳はない。雨風雷全てが勢力を強め部屋の外で暴れまわっている。しかしだからといってギャングの意に背く事はできない。その後の報復は俺の想像できる範疇を超えてくるだろう。

仕方ない。

俺はパジャマを急いで脱ぎ捨て海パンを履き、いつかこんな日が来ることを予想してとっておいたTシャツに腕を通す。決して勝負服ではなく、役目を終え捨てる予定だったTシャツだ。襟はよれ、ただ乳首を隠すだけの機能しか持たないようなTシャツ。

これでいいんだ、今必要なのはお洒落ではなく生き残る意思だけ。そう自分に言い聞かせ、鏡に映るヨレヨレな自分を必死で鼓舞する。

戦闘服に着替え終わりビーチサンダルを履き家の外へ出た途端、風の強さを初めて体感した。こんな風じゃ傘なんて邪魔なだけだ、使ったところで直ぐに壊れてしまう。でも傘がなければ雨で視界がー

途方に暮れていた時、偉人の言葉が頭の中に浮かんできた。

 

((傘がなければゴミ袋をかぶればいいじゃない))

 

確かこの言葉はマリーアントワネットだったか。やはり歴史に名を残す人は考えることが違うな。

俺はすぐにキッチンからゴミ袋を引っ張り出し頭にかぶる。

なるほど、なかなか利便性は高い。

しかし腕が広げられないことと、風でスカートがめくれるようにゴミ袋がめくれ上がってしまうことが懸念される。そこで俺はゴミ袋の端を切り腕を通せるように改良を加え、裾の部分はガムテープで腹巻のようにぐるぐる巻きにした。

完成だ。これなら台風に負ける事はない。生きることに特化したその服装は、誰が見ても明らかな変態だった。

しかし今はそんなこと関係ない。俺は最強の戦闘服で彼女の部屋に向かって走り出した。予想以上の雨風にもうすぐ溢れ出しそうな川。それら障害を乗り越え走り続けること40分。俺はなんとか生きたまま彼女の住むアパートにたどり着くことができた。急いで彼女の部屋に行きインターホンを鳴らす。中から足音がきこえる。鍵を外す音が聞こえる。遅くなってごめんね、でもここまでちゃんと来たよ。ドアを開く彼女。ゴミ袋をかぶる俺。じっと見つめる彼女。ガムテープを腹に巻いた俺。口を開く彼女。

 

「え、キモい。」

 

あぁ、良かった。ギャングはどうやら無事らしい。

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