【短編小説】JKオセロ

冷房が効きすぎる車内の中で俺は困惑していた。

隣の席にJKが座ってきた。

 

近い。

 

今の日本では、仮に触っていないとしても痴漢冤罪が有罪になる確率は99%にまで及ぶだろう。

やったことの証明はできなくても、やっていないことの証明ができなければ終わりなのだ。

ひどい話だ。やっていないことの証明なんて、真犯人を見つけるくらいしか立証できないじゃないか。真犯人がわざわざ名乗り出るわけもないだろうし、ともかく一瞬でも触れれば終わりだ。

 

俺は肩をすぼめ、足はピタリと閉じ、1人暮らし用の掃除機の様にコンパクトに身体を細く保っていた。

会社の最寄りまではあと20分程か。

身体を細くした状態の維持は思ったよりも辛かったが、満員で立ちっぱなしよりはいくらかマシだろう。

そう思った矢先、次の駅で逆隣のサラリーマンが席を立ち、代わりに別のJKが座ってきた。

 

この状態を喜ぶ人もいるだろう。

でもそれはきっと脳内で美少女に変換しているからだ。残念ながら今回美少女が出てくることは一度もない。

登場人物は底辺サラリーマンと、よく見たらブスやないかJKと、匂いと見た目が釣り合ってないJKの3人だけ。

 

とすればこの状況は何も嬉しいものではない。

俺がいくら身体を細くしようと思ってもどちらかのJKに触れてしまう。

どうしようもない恐怖が押し寄せてくる。次の駅で降ろされるのだろうか?それとも5秒後に引っ叩かれるか?

俺が人として人生を全うできるのは今日が最後かもしれない。

 

水面に落ちた小さな不安が波紋を作り、やがて大きな波となって襲い掛かってくる。

どう姿勢を変えてもどちらかには触れてしまうので、5秒ずつよく見たらブスJKといい匂いのブスJKを交互に触れるようにする。

いや、これ逆効果じゃないか。余計怪しいんじゃないか。

気付いた時には既にJKも明らかな拒絶反応を示している。身体はできるだけ反らし肘をこちらに向け臨戦態勢だ。

違う、違うんだ。俺は5秒ずつお触りしてたわけじゃない。不可抗力だ。

 

このままでは本当に冤罪で捕まってしまう。

 

JKに挟まれている限り危険は続くだろう。今すぐにでも俺は痴漢じゃないとアピールしなくては。いっそ先にこいつらを痴漢に仕立てるか?いや俺が叫んだところで信じる人間はいないだろう。こいつらを痴漢にできないなら逆はどうだろう?逆?俺がJKになる?それは話がずれてしまうか。俺がJKになったところで痴漢が無くなるだけでー

 

いや、待てよ。

 

そうか、俺がサラリーマンだから痴漢の疑いをかけられているのか。

ここにいるのが可愛いJKであれば、だれも痴漢を想像することはないだろう。

 

俺がサラリーマンだからダメなんだ。

そう気づいた俺は目を瞑り、脳内のクローゼットを漁る。

 

ネクタイを外しジャケットを脱ぎ捨て、見つけたのは紺と緑のチェック柄のスカート。少し地味な感じもするけど可愛い。黄ばんだシャツの代わりに薄い青色のシャツに袖を通し第二ボタンまで閉めれば完成だ。

脳内には何でもそろっている。衣装鏡の前に立ち全身をチェックすると、そこには制服に身を包んだヒゲの人がたっていた。

 

大丈夫、私は可愛い。目を開ければ私はJK。さぁ行くんだ。

 

ゆっくりと目を開けると、車内はピンク色の照明に代わり、涙袋がぷっくりとした目をしていた。

扉が開く。

ドアの向こう側にはお花畑が広がっている。

 

どうやらJKに変身している間に会社の最寄りについたようだ。

大丈夫。私は可愛い。電車を降りたってそれは変わらない。

 

お花畑を踏み荒らしながら会社というお城へ向かう。

きっとお城には王子なんていない。

それでも大丈夫。

今日の私は昨日の俺とは違う。

 

この物語の主人公は私。

話しかけてくる奴ら全員痴漢で訴えてやる。

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